❷Kくんの軌跡の中学受験
【最後の授業】
「受験を辞める」と決意したKくん。お母様と話し合い、翌日の授業を最後に家庭教師を終了することになりました。しかし、その最終授業で気づいたことがありました。それは——。
Kくん専用の問題や、Kくんに合わせた授業を行うと、Kくんは驚くほど多くのことを吸収しました。そして授業の終わり際、Kくんがふと口にしたのは、「本当に嫌なのは塾」という言葉でした。
Kくんが本当に嫌だったのは、勉強ではなく塾での友人関係でした。多くの子どもはその本音を隠します。親が気づけないのも無理はなく、お母様がそうおっしゃるのは仕方ないことでした。
【やっぱり合格を目指したい!】
最後の授業になるはずだった6月20日。しかし帰り際、Kくんが「やっぱり志望校を目指す!」と宣言。その一言で、Kくんの受験生活が再スタートしました。多動症・学習障害を抱えるKくんが挑む、波乱の受験物語がここから始まります。
【多動症(ADHD:注意欠陥多動性障害)の生徒の日常】
Kくんの授業は一筋縄ではいきません。Kくんに合わせた指導を行うものの、気づけば消しゴムで遊び、漫画を読み、カーテンに包まる…。机の下から出てこない日もあれば、スタンドライトを口に入れたり、部屋の電気を消したり、お菓子と飲み物を混ぜて“謎の実験”を始めることもありました。
Kくんとの授業は、思わず笑ってしまうようなエピソードの連続で、あと100個は書けそうなくらいです。それでも…
約半年間、授業時間の3分の1は勉強に集中できない日もありました。それでもKくんの、「合格したい!」という想いは本物でした。ベッドの上からでも、体を揺らしながらでも、一生懸命に頑張り続けました。(※学習障害の子どもが集中できないのは特性によるもの。理解と支援が大切です)
【まずは国語力を上げる】
4教科受験で最も重要なのは「読む力」。偏差値が高い学校ほど、この力が求められます。Kくんが目指すのは県内トップ3の進学校。そのため、まずは読解力の強化が最優先でした。しかしKくんは学習障害を抱え、読むことも書くことも大嫌い。だからこそ、徹底的な工夫と粘り強い指導が必要でした。
【イベントの開催】
勉強は机の上だけではありません。トップクラスの進学校を目指すなら、外に出てさまざまな体験をすることも大切です。自然に触れ、知見を増やし、動植物と関わることで好奇心を刺激し、学びの幅を広げることも重要です。
冬休みは猛特訓の勉強会と自然体験イベントを開催。集中して学習に取り組みつつ、勉強会後は銀杏や山茶花、落ち葉の下に隠れる天道虫を探し、実際に見て触れて学ぶ時間も大切にしました。
【怒る前に、見直すべきこと】
子どもが思うように勉強しないと、ついイライラしてしまうこともあるでしょう。でも、怒ることで状況は改善するでしょうか?大切なのは、叱ることではなく、環境を整えることです。本当にその子に合った問題を出しているか?特性を理解し、適切な指導ができているか?
お子様に怒るべきタイミングは、勉強しない時ではありません。ルールを守れなかった時、無責任な行動をした時、危険な行動をした時などです。——大切なのは、指導方法を見直し、「どうすればやる気を引き出せるか?」を考えることこそが、成績向上への近道なのです。
お子様が自主的に勉強するようになるには、「勉強って楽しい!」と思えることが重要です。そのためには、怒ったり罰を与えたりといった外的要因ではなく、向上心や好奇心などの内的要因をじっくり育てることが鍵になります。学ぶ喜びを知ることで、自然と机に向かう習慣が身につきます。
【Kくんに最適な学習法の工夫】
Kくんは文字の読み書きが苦手だったため、視覚型・体験型・対話型の授業を中心に進めました。しかし、それだけでは志望校合格は難しいため、少しずつ文字に触れる機会を増やし、無理なく読み書きの力を伸ばす毎日日記を始めました。
最初は10~20文字、次に20~40文字と、何気ない日常の簡単なことから書く習慣をつけ、少しずつ書く力と考える力を育てました。無理なく続けることで、Kくんも自信を持って取り組めるようになりました。
もちろん、勉強を楽しむ工夫も忘れません。興味を引くテーマを取り入れたり、ゲーム感覚で学べる問題を用意したりしながら、Kくんが前向きに取り組める環境を整えました。
そして月日が流れ、5年生が終わる頃に受けた県内模試で、なんとKくんの国語の正答率が6割に! 多動症や学習障害があっても、適切な指導と努力次第で成長できることを証明した瞬間でした!(※ちなみに、Kくんが第一志望校の入試で最も高得点を取ったのは「国語」でした)
ここまでがKくんの小学5年生編です。試行錯誤を重ね、確実に成長してきたKくん。そして迎えた小学6年生――いよいよ本格的な入試対策が始まります。続きはこちらから↓